通されたのは四方オープンの開放的なテラスのテーブル席。
周りを新緑の若葉で囲まれた自然たっぷりの空間である。大原は京都の北に位置する。そのため市中より桜の時期が遅い。それでも2日−3日前がピーク。テラスの外は盛りを過ぎた桜が花吹雪を舞わせていた。その乱舞の様がまるで夢の様な空間に写った。
① テラスのテーブル席

三千院から30分−40分かけて歩いた。賑やかな観光の場所からポツンと離れて存在している野むら山荘に約束の12時に到着。大きな暖簾がかけてある玄関を入ると、女将とご主人が玄関の上がりで正座してわれわれを待っていた。
静かに正座して、客を待ち受けていたその振る舞いと笑顔に少しばかり感動した。
和倉の加賀屋にはもう15年ほどの昔に泊まったことがある。宿の入り口で仲居全員が一列に見事に勢揃いして客の送り迎えをすることを考えたのはこの宿が初めてだった。その後あちこちの温泉旅館がその真似をし始めた。
オリジナルは貴重であるが、真似は創意工夫が加わらない限りいけない。だいいち客の数を大幅に上回るその圧倒される多勢ぶりはあまり感心しない。客の勢いとまるきり見合っていないのだ。静かでゆっくりと身体を解きほぐし、心を和らげた後で、またそのように過ごすことを期待しての前に暴力を振舞われるがごときとなる。
さて、静かに出迎えを受けた玄関の間を通り、30年ほど前に修学院の地から移築されたという茶室に先ず通された。アジロを葺いた天井、壁土は古色を帯び、腰の高さに古い文字が書かれた和紙が貼ってある。お薄と和菓子が供される。この静かで落ち着いた一服の間が外の世界から食事の場へこころの切り替えをする巧みな繋ぎとなっている。
こころが落ち着いて、食事への期待が高まるころ、テラスの席に通された。建物の柱に一輪挿しがかけられている。そこに艶やかな桜の小枝が活けられ、客を歓待していた。
② 一輪挿しに活けられた桜の小枝

馳走のお品書きとともに最初に出された突き出しは春の山菜。土筆、甘草、ホタル賊、筍、コゴミ、ノビル、サーモン、菜の花、たんぽぽ、木の芽、花わさび、ネギ坊主、椎茸 がぎゅっと詰まって盛り合わされた皿であった。素晴らしかった。
どれも春のこの時期の旬のもの。椎茸だって春子であった。旬の食材の強い生命力を感じられる美味で、口が喜んだ。甘草なんて初めて食した。漢方薬の材料にしかならないと思っていたが、こうして新鮮なものは貴重な料理になる。それに添えられたごま味噌風のソースがいけた。
③ お品書き

④ 春の旬菜

最初に客に出される皿はその趣向と味で客を驚きと喜びで捉え、魅了しなければいけない。しかし、それが魅了すればするほど、次に出される皿は難しくなる。さらに客の舌を喜ばせなくてはいけないからだ。
出てきたのはすっぽんの土瓶だった。すっぽんの土瓶蒸しを味わったのは何年ぶりだろうか。大好きな寒い季節の一品である。このすっぽんのスープの味が喉を唸らせるほどであった。幸せを感じる一品であった。一皿目は客を満足させても、二皿目が客の期待を裏切らず、上回るのは余程の店である。
⑤ すっぽんの土瓶蒸し

次に品を変えて出てきたのは軍鶏の刺身だった。妻は鹿児島の田舎出。小さい頃から、田舎では何かといえば、家で飼っている鶏を絞め殺し、客に馳走するのが常であった。それを食べ続けたので、その反作用で鶏が好きでない。そのくさい臭いが鼻について嫌なのだ。
出された軍鶏の刺身肉はしかしまったく臭いがしなかった。
⑥ シャモ肉の刺身

締めの前の最後の料理は筍の姿焼きと筍の天ぷらであった。お主やるなと思わず言ってみたくなる一品である。
皮がついたまま、半身にカットし、焼く。醤油を塗り、香ばしく焼きあげる。舟型に包丁が入れてあり、大きな塊を箸ですくって食らいついた。天ぷらも同様舟型にカットして、揚げてあった。
焼き筍といい天ぷら筍といい、野性味たっぷりの姿で繊細な旨味に堪能した。
⑦ 筍の姿焼きと天ぷら

生ビールで始まった酒は骨酒に切り替わった。岩魚なのか鮎なのか、魚に弱いので、判断がつかないが、多分岩魚と一合半の日本酒の骨酒仕立てが大きめの焼き物の鉢に注がれて出された。コップ酒しか知らない者にとって、こういう趣向は新鮮であった。骨酒大好き人間にとっては祝福の癒しであった。
下につづく写真は最初に出されたアペリチーフの梅酒。わが家でも山桃酒や梅酒を作っているが、口に入れた瞬間、その妙なる味は味わったことのない美味に感じた。今度レシピを伺ってみたいと思ったほどである。
⑧ 骨酒

⑨ アペリチーフ

最後の締めはここの名物軍鶏鍋。軍鶏鍋のあとはその残った旨いだし汁で雑炊へ移る。ただ旨いとしか表現のしようがない鍋であった。二人とも少食なので、半分以上残してしまったのが、丁寧にこころを尽くして準備してくれたご主人に申し訳なかった。
⑩ 軍鶏鍋

⑪ 水菓子

食事の後はお風呂をご馳走になった。ヒノキの新しい浴槽に地下から汲み上げるたっぷりの湯が気持ちよかった。身体が火照るほど温まり、外の空気に晒されても、暫くの間、幸せに包まれている気がした。
玄関の暖簾を潜り、素晴らしいひとときを過ごした別世界を辞した。
⑫ 玄関の暖簾












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